今から25年前、私が高校一年生の時にK君と出会いました。
同じクラスにいる黒いおカッパ頭で、肌が白く、お坊ちゃん風というのが第一印象でした。あまりしゃべらないおとなしい人でした。
私は第一志望受験に失敗し、何となく入学した高校で、何かの目標を探していました。
部活を選択する際にK君は音楽部に、私の周りの数人も音楽部に入るということなので、何となく見に行きました。
そこで、K君のプレイを見る事となるのです。
クラスでは全く目立たない、お坊ちゃん風の彼がとてつもなく、うまいギターを弾くのです。
先輩も同級生も彼の演奏に釘付けとなりました。
私は、その場でやった事もないドラムを志望し音楽部に入部しました。
入部してしばらくしてバンドを組むのですが、幸いなことに私のバンドデビューはK君と一緒だったのです。
とにかく、こちらは全くの素人、彼のギターとは雲泥の差なのです。
家にドラムの練習台も購入し、学校から帰ると毎日練習をしました。
なんとか彼に認めてもらいたい、バンドで迷惑をかけたくない一心で必死に練習をしました。
それでも彼のレベルに追いつく事はできませんでした。
それは努力ではどうにもならない違う世界、違う次元を感じさせるものでした。
あるとき、私は彼に尋ねました。「いったい一日どれくらい練習すればそんなにうまくなるんだい?」
すると彼はいいました。「練習?俺は風呂に入るとき以外はいつでも弾いてるよ。トイレでもね。」
私は、こいつには絶対かなわないな、と思いました。
ギターのうまさは全校的に広まり、学園祭の時には彼の演奏を聞くために黒山の人だかりができました。
彼の風貌も変わり、おカッパ頭はロンゲになり、パーマをかけていたので、中世のお姫様のような姿になりました。
二年生の頃、彼は他の高校のメンバーと組んでいたバンドでヤマハ主催のコンテストに参加し、見事にグランプリ。
ベストギターリスト賞も取りました。
彼はプロになる事を決意していました。
私たちの高校は大学の付属高校でしたのでほとんどの生徒が大学に進む事を選択する中で、たった一人だけ社会に出る事を決意していたのです。
私も周りの友人も誰一人彼を止めませんでした。学校の先生も止める事はできませんでした。
彼は毎日毎日練習していました。十分にうまいのに練習するんです。できない事はないのに、ちょっと気になるフレーズがあるとジャンルを問わずに自分のものにする努力をするのです。ジャズもクラシックも練習していました。
卒業後、彼はプロとしてデビューしました。
でも、そのバンドは2年も経たずに解散、彼も失業してしまったのです。どんなにギターがうまくてもレコードは売れないのです。
しかし、プロミュージシャンとして生きる事を選択した彼は諦めずに地道な努力をしていたのです。
その数年後、メジャーなバンドに加入する事ができ、世の中に知られて行くことになるのです。
私はK君から、プロという生き方、あきらめない気持ちを学んだ気がしています。私自身の高校生活も彼と音楽のおかげで充実するものとなりました。
先日、Yahoo!のトップページを見ていて何気なくクリックして開いたページに彼のインタビュー記事が出ていました。
そこに書かれていた事は、私と出会う前の彼の苦労が書かれていました。
大阪で、一人っきりで暮らしていた小学生時代、不登校になった中学生時代。
高校の頃には聞けなかった話がそこにはありました。
彼は、自分の家族や過去をあまり話したがらなかったし、私たちもなるべく触れないようにしていたので知る事はなかったのでしょう。
彼は高校に入学すると同時に自分を変える努力をし、寂しさを紛らわすために一心不乱にギターにのめり込んで行ったのでしょうね。
25年後に知った新たな真実でした。
K君の名前は、橘高文彦。筋肉少女帯のギターリストです。最近ではXYZ→Aというバンドもやっているようです。今月CDを出したそうです。もしも関心のある方は買ってやってください。
それにしても、同じ年(41)でロンゲ、金髪でヘビメタはすごいね。頑張って欲しいですね。
ちなみに、インタビューページはこちらです。