昨夜土曜日の夜に見た「東京消防庁」隊員の会見。
自分は、これほどまでに説得力のある、そして心揺さぶられるプレゼンテーションを見た事がない。
彼らは真のプロである。
現在、原発の現場で働いているあらゆる人々は、皆自分自身のやるべき仕事をし、最大の成果をあげるべく努力をしている。
被災している人々の映像が入る。
我々がテレビを介して見ている以上の惨状が広がっているのであろうことは、容易に想像できる。
津波被害、原発事故での避難。
我々に出来る事は何か?何かをしてあげたいのにできないもどかしさ。
日本中の人々がそう思っているのであろう。
しかし、今、東京で起こっている事は何であろうか?
先週日曜日、関東地方の計画停電が発表された。
そんな中で、いち早く1週間の休業、自宅待機を決めたサービス業大手企業がある。
週の中盤からは、さらに多くのサービス系、システム系大手企業が休業に入る。
某N氏(元通信関連企業でiモードを開発した?といわれている)は、「こんなときこそ、節電の為に1週間企業を休みにしてはどうか、社員の英気を養うためにも」と発言する。
木曜日、寒い一日になった。
それまで節電を心がけてエアコンを自粛していた関東地方の人達も暖房を。
電力需要が高まり、夕方近くになり、いきなり東電の発表。
「このままだと18時から19時の間に大規模停電があり得る」
政府は何の思惑も対策もなく、そのままの内容を官房長官が発表をする。
大手企業はいち早く反応し、16時過ぎから急遽社員を強制帰宅。
その結果、東京の主要駅、渋谷、新宿、池袋、品川では夕方17時頃から19時頃まで大混乱を起こす。
入場制限や混雑による電車の遅延により、帰宅者は肉体的、精神的に相当な負担があったであろう。
しかし、この日の大規模停電はなく、終電まで順調に電車は運行されていた。
政府の無策、低能ぶりにあきれるのは当然であるが、大手企業の一連の対応には、あきれるばかりである。
11日の大震災は、東京も相当の揺れがあった。
都心では震度5強である。
自分が生まれてこのかた、出会った事の無い揺れである。
交通機関がすべて麻痺し、歩いて自宅までたどり着いた人も多い。
明けて、土曜日、日曜日、テレビから流れて来る情報は、被災地の凄惨な状況。
さらに、原発の危機的状況。良いニュースは何一つない。
そして迎える、月曜日。
自分は「社員は無事に出社できるだろうか?」を心配した。
この「無事」というのは、心身ともにである。
人間、極度の恐怖を体験し、非日常的な情報を浴び続けて、悲観的な、そして危機的な状況を、簡単に受け入れられるとは思えない。
家族と共にある人はまだ良かろう。
しかし、地方から出てきて一人で生活している人がそのような状況になった時に、果たして普通にしていられるのか?
そんな不安があった。
だから、「遅れても良いから、安全に配慮して、できるだけ出社してください」という旨のメールを日曜日の夜に全社員に送った。
幸い、在京の出社可能な社員は全員出社できた。
その顔は、また会社で再開できた喜びと、不安を共有できる安心感に満ちていた。
月曜日朝のマネジャー会議、役員会議で臨時の社内規定を作成。
停電に関連する遅刻や休暇を有給ではなく特別休暇に、20時までには帰宅する、など。
業務を停止したり、休みにするという議案には一切反対をし、継続の方向で合意をした。
それにはいくつも理由がある。
月曜日朝、メールを開くとユーザーからの相談が来ていた。
日付を見ると13日日曜日。50代の女性からであった。
「今からでも看護士になれる方法はありますか?」
という内容。
別に震災の事が書いてあったわけではない。
「我々の事業は止めてはならない」
そう思うのには充分な理由であった。
今、被災し、避難をし、家も家族も仕事も無くした人達が沢山いる。
被災直後は、衣類、食事、医療の問題が大きい。
しかし、その後は住居の問題。
そして、職の問題が必ずやってくる。
そのときに、我々の情報、そして我々のクライアントが、必ず役に立てるのである。
そう思ったら休んでいる暇などない。
今は、我々の事業を粛々と進めるだけである。
それが、本当の復興事業ではないだろうか。
続ける理由のもうひとつ。
当社のメンバーには茨城県から通っている人もいる。
彼女は被災している。
水が出ない。
そして、ガソリンがない。
だから会社まで来られないのである。
月曜日からずっと電話やメールでやり取りをし、焦らなくても良い、来られるようになってから、ゆっくりと。とのメッセージを送り続けた。
木曜日、やっとの思いで出社。
ほぼ1週間ぶりに会えた彼女は、本当にうれしそうだった。
皆に会いたかった。そう言う気持ちがあふれていた。
待っていてくれる人がいることは、人を勇気づける。
会社を休みにしたら、勇気を与える事もできない。
当社は、月曜日から出来るだけ通常業務を行い、クライアントの状況を伺いながら情報の変更を行い、ユーザーからの問い合わせに対応している。。
状況は刻一刻と変化している。
クライアントやユーザーの求めるものも変化している。
それに対応するのが、今我々のできることである。
もちろん社員の安全は第一に考えている。
安易な情報で右往左往し、社員に不必要な疲労を与えるような事が無いように細心の注意を払っている。
放射能に関する正しい情報も入手している。
ネットに流れるデマやマスコミのデタラメ情報に踊らされる事無く、日々しっかり判断している。
今ほど経営者としての判断力と決断力を求められる時はない、そう思って日々勤めている。
大手企業のいくつかは、会社を休みにして、一方では機関投資家として円を吊り上げ利益を出している。
さらに、今回の休業補償については、会社側の支払い義務はない。
それにしても、孤独感や喪失感、恐怖心に苛まれている社員を1週間も放っておくのだろうか?
平常時には社会貢献を理念としている企業が、非常時にはクライアントやユーザーの声に対応しようとしないのはなぜだ?
1週間も職場から見捨てられた人達は、恐怖心や危機感から不要不急の買い占めを行う、これが正義か?
前出のN氏よ、言わせてもらう。
「英気」とは平時に使うにはよかろう、今は非常時である「社員の英気を養うために会社を休みにせよ」などと言うべきではない!
社会の状況も人の心も全く理解できていない愚か者の言葉である。
今は、歯を食いしばってでも、自分達の信じる仕事をやり続けることである。
今、福島の原発で救国の仕事をしている人達の言葉を聞け。
「自分達はやるべき仕事をしているだけだ」
我々も見習おうではないか!
被災地の状況を嘆き、わずかばかりの義援金を寄付して満足しているのではなく、事業を続けよう。
我々の事業が、明日の彼らの希望になるのだから。