ここは自分が起業して初めての商売を行った場所。
西新井大師参道入り口の脇、商店街の一角。
約20年前、サラリーマン生活に別れを告げて、何をしていいか全くわからなかったとき、お世話になっていた先輩経営者に勧められるままに始めた商売、お茶の露店販売。
それまで、R社で法人営業と映像企画の仕事をしてきたが、いきなりの個人へ販売の仕事。
前日に100グラム500円、1000円、3000円のお茶パックを仕込み、即席で作った段ボールの販売台に並べる。
アルバイトで雇った女の子に試飲用のお茶を茶碗に注いでもらい、道行く人に試飲を勧める。
最初はなかなか立ち止まってもくれないが、お昼近くになってご年配の方々が通りがかるようになり試飲してくれる人が出てくる。
試飲してもらえると、かなり高い確率で購入に至る。
まずは高いお茶から売れる。
100グラム3000円のお茶なんて買ってもらえるのか、疑心暗鬼で仕込んだにも関わらず、そのお茶が売れる。
確かに試飲すれば高いお茶は味が濃い。おそらくうまいのだろう。
午後2時ごろにはこの高いお茶が売り切れる。
その次に100グラム1000円のお茶が売り切れる。
500円のお茶は売れ残った。
なんとも不思議な体験をした気がした。
しかし、考えても見ればわかる。
わざわざお大師様に参拝に来ているのだ。
日頃100グラム500円のお茶を飲んでいる人もせっかくだからおいしいお茶を買おうと高いお茶を買うのは道理。
いつものお茶ならいつものお店で買えばいい。
消費者心理というものに初めて触れたような気がした。
その後駅テナント(武蔵浦和駅)のお茶さんのマネジメントなども経験し、これまた未経験の店舗マネジメントを学んだ。
それでも起業して2年くらいは、食うや食わずの生活。
お茶の販売だけじゃ食えないから、なんでもやった。
そのたびに試行錯誤したし、自分が何者なのかわからずにもがき苦しんだ。
法人営業で培っていた経験などは全くと言っていいほど役に立たなかった。
生きていく自信もなくなったし、先の見えない状況に絶望感もあった。
それでも食っていかなきゃならないから、なんでも必死だった。
その後、スクール情報誌の創刊を手伝う仕事に出会い、スクールマーケットと出版という領域にはまっていく。
最初のお茶の販売とは自分にとってなんだったのか?
もしもR社をやめてすぐに出版の仕事をしていたら、今の自分はなかったと思う。
お茶の仕事は、世間知らずで生意気だった自分に、もう一度足元を見ることを教えてくれた。
「おまえは何にもわかってない、ただのガキだ!」と仕事が伝えてくれたわけだ。
何事か始めようとするとき、自分の経験の基準から重いか軽いかを判断しようとする。
「自分はいっぱしのビジネスマンだ。この仕事の経験はないが、なんてことはないさ」
なんて思うんだよ。
でもそれは思い上がりだ。
仕事の方が、そんな思い上がりをぶっ潰す。
どんな仕事だって0ベースで向き合う、真摯な気持ちが必要なんだろう。
初心わするべからず。
そんな言葉を思い出させる場所である。
ちなみに、当社の定款にはいまだに「お茶の販売」という事業内容が記載されている。
大事な事は忘れないように書いておかないとね!