先週末、毎年恒例の立教大学山口ゼミの論文発表会があった。
自分が参加する経営者勉強会が協力した論文集が完成したので、その発表会である。
毎年感じる「今の学生は本当にえらい!」は、今年も例外なく。
彼ら彼女らは経済学部の学生の中でも本当に良く勉強していると思う。
自分たちと比べるのは本当に失礼な話だと思う。
論文発表は4班がそれぞれが行い、経営者のおじさん達が突っ込みを入れる。
にわか勉強のおじさん達が質問をするのだが、結構鋭いところを突いてくる。
さすがは、百戦練磨。ツボを得ているね!
そんなツッコミを学生達は臆する事無く反論してくる。
たいしたものだ、腹も座ってるよ。
約3時間に渡る発表会が終わると、二次会である。
おじさん達と学生達が交互に座りながら雑談タイム。
自分の周囲はなぜかいつも三年生が多い。
すると当然就職活動の話になる。
今年も二人の三年生が近くに座った。
二人とも今日の発表会で活躍したリーダー達だ。
「二人とも今日は本当に立派だったよ、就活も順調?やっぱり金融志望なの?」
「いや、順調とは言えませんが、金融志望です」と男の子。
「説明会もそろそろ終わりそうです、これから面接ですね。金融業界だけで考えています」と女の子。
「そうか、まぁ金融論のゼミなんだから金融志望は当然なんだろうけど、せっかくだから他の業界も見て見たら?」と軽く振ってみる。
「いや、先輩の話とか、説明会に頻繁に来てくれる銀行の人の話を聞いていると、他の業界とか興味なくて」と胸を張る女の子。
「え、だってまだ3月だし、いろいろと聞いてみるのも良いんじゃないの?」
「いやー、私、メーカーとかで働いているイメージがわかないんですよね、理系じゃないし、モノを売ったりするのって苦手そうだし」となぜか確信的な態度。
「そうそう、形の無いものに価値をつけてお客さんに提供する仕事って素晴らしいと思うんですよね」と男の子が入ってくる。
「はぁ?メーカーって文系の人もたくさん活躍しているし、モノを売るって仕事ばかりじゃないし、形の無いものに価値をつけるって金融商品の事を言ってるの?そういう仕事をしたいの?」と、おじさんちょっとムキになる。
「はい、説明会で聞いているうちにもうこれしかないかな、って思ったんです」やはり女の子は胸を張る。
「形無いものを売るって、他にもいろいろとあるよね、コンサルタントもそうだし、採用の仕事だってある。そう言えば先輩で採用広告の代理店に入社した人いたよね?」と去年のゼミ生に採用の代理店に入った男子がいたのを思い出した。
「ああ○○先輩ですよね、まぁいますけど、やっぱり金融以外はあまり興味ないです」と素っ気ない。
「僕も今は金融以外に興味はないですね」おい、ちょっと顔が赤いぞ、飲み過ぎたか!
「はぁ、そんなものかなぁ」半ば諦めとあきれ顔。
こんなに業界を完全に絞り込んで挑むのが今時の就活の常識なのかどうかは知らないが、ちょっと驚いた。
驚いたのは、彼ら彼女らの“思考の固さ”である。
自分がこうと決めたら、テコでも動かないという頑な姿勢。
数年前にも同じ席で同じ質問をすると、同じように金融を考ているとは答えるが「とは言えまだ決めかねているですよね、いろいろな業界を見ているところです」という答えが帰ってきていた。
だから、少し興味のある業界について質問されたりしたものだ。
話を聞いた二人には、どうやらそういう考えがなさそうである。
学校からそうしろとでも言われたのかな?
ネットでの就活が当たり前の時代。
様々な情報に触れる機会も増えているというのに、いったいどうしたことだろうか?
もしかすると、情報が増えすぎてしまった結果がこのような“思考の固さ”を産んでしまったのではなかろうか?
昔(我々が就活してたころ)は、企業情報を集めるのに苦心した。
大学三年生のある日にいきなり見た事もない大きな段ボール箱が届き、中には百科事典のような本に企業情報が満載されていた。
リクルートが発行する「リクルートブック」である。
掲載されている情報は文系理系で内容が違い、届く学生と届かない学生が存在していた。
女子学生にはほとんど届かなかったという事実は後から知る。
リクルートブックが届いた学生も届かなかった学生も、自らで企業情報を集めなければ、まともな就職先の情報がなかった。
だからOB訪問もしたし、いろいろな企業の説明会に参加した。
そうすることで社会の仕組みも知り、若干の厳しさも知る。
情報とは与えられるものではなく、自ら獲得するものであるという事を身を以て体感した。
ところが、今では“Google先生”がなんでも教えてくれる。
Googleで“新卒求人情報”とでも検索すれば恐ろしい数の検索結果が出るであろう。
だから情報の渇望感というものがない。
一度求人サイトに登録すれば「あなたにピッタリの企業情報」や「おすすめの求人情報」があなたのメールに日に何通もやってくる。
必要不必要関係なく降り注ぐ情報に“いかに惑わされないか”のほうが大事な状態になっている。
情報に惑わされない為に、何を信じるのか?
それは、大きな会社で皆が知っていて、仕事内容がわかりやすく、自分が信じる事ができる“先輩”や説明会で丁寧に話をしてくれる“信じる事ができる採用担当者”がいる企業らしい。
信じる人の条件とは、自分の事を見てくれている、気にしてくれていることらしい。
そういう人達の話を元に就職したい企業を決めて、その企業に入れるように自分を“矯正”するらしい。
一度そのような流れを作ってしまうと、簡単には変更しないようだ。
以前、このブログで就職人気ランキングが“なんか変”という主旨を書いたが、彼らの話を聞いて妙に納得してしまった。
マスコミ等で耳障りの良い仕事内容を伝えて、優秀なリクルーターと採用担当者がみっちり学生をフォローできるのは、今の時代「金融業界」ぐらいのものだ。
そういった企業の採用戦略に彼らは完全にはまっていると言えるのだろう。
就活生の今のゴールは「内定」である。
内定の為に自分を矯正し、面接のスキルを磨く。
その後のキャリアや生き方などは全く考えていないのである。
そういう就活をして、いざ入社するとどうなるのだろうか?
すぐに来るのは実際の仕事と自分の思っていた仕事とのギャップ。
「自分がイメージしていたのはこんな仕事じゃなかった」
「働いている人がイメージと違う」
などと、なんとも手前勝手な不満を言う。
そして早い時期に退職をしてしまう。
ちなみに昔から、実際の仕事と自分の仕事のイメージが違うなんて事はあった。
だからこそ、自分の理想と現実とのギャップをすり合わせることで、社会人として成長していくものだ。
しかし、ここ数年の状況で言えばかなりあっさりと諦めてしまう。
24、5歳の失業率は高止まっている現状がそれを物語っている。
就職した人がすべてそうであるとは言わないが、ここ数年の新入社員の3年内離職率が高いのは気になるところだ。
現在三年生の彼ら彼女らは、全員が自分の望む企業に入社できるわけではない。
そうなった時にすぐに気持を切り替えられるのだろうか?
最初から自らの可能性を閉じてしまっては、素晴らしい能力を開花させることはできない。
他人の声やマスコミの声を気にするよりも、まずは自らの声をしっかり聞いて就職活動をして欲しい。
論文発表であれだけ堂々とした応酬ができていた彼ら彼女らが活躍できる舞台は金融以外にもたくさん存在しているはず。
まずは自ら新しい舞台に飛び込む勇気を持ってもらいたい、それが若さの特権のはずだからね。