あるサロンのスタッフお二人に取材をした。
二人ともそこのオーナーの事をとっても信頼していて、尊敬していて一緒に働く事に感謝している。
お二人にとってカリスマなんだね、オーナーは。
カリスマにもいろいろとある。
20年前、独立したてで金もコネもない自分を助けてくれた先輩経営者、Nさんもカリスマの一人だった。
元々R社のカリスマ営業マン、お客さんが来社してきて仕事の依頼をするほどのできる人だった。
独立して経営者になってからも、新しい大きな企画をどんどん世に出し続け、売上も右肩あがり。
社員数も年々増え続け、出資したいと申し出る人が続出していた。
オフィスもお洒落。たくさんの社員が闊歩していた。
そこで働いている人達はNさんと一緒に仕事が出来るという事に満足していたし、一緒に夢を見ていた。
彼の事業展開には先見性があり、経営手法は大胆。事を起こすのが早いし、規模がでかい。
周囲が一緒になってその高揚感に酔っていた。
独立したての自分にはとてつもなく遠い存在だった。
しかし、バブル崩壊という大きな波が彼の運命を大きく変えて行った。
社会が右肩上がりの成長を止めた時、彼の経営者としての「勘」が効かなくなったのだろうか。
大胆に進めていた事業すべてが頓挫する。今まで当たり前に入って来た仕事が急に入らなくなる。
右肩上がりの業績が急降下を始める。
リストラ。
それまで彼を慕っていた人達が潮が引くように去って行く。
自信一杯だった彼の表情が曇っていく。
それでもわずかに残った人達と再起をかけて事業を進めようとする。
うまくいかない。
マイナスの回転は止まらない。
オフィスの転居。
周囲の視線が反転、針のむしろ。
生活も荒れて行く。
飲み続ける日々。朝から晩まで酒が手放せない。
震える手。仕事は借金返済の遅延を詫びる事。
昔からのツテでわずかに残った仕事を、数名の社員でこなして行く。
「この仕事がうまくいけば」「この企画はすごく儲かるぞ」という言葉が多くなっていく。
かつての面影を無くしたNさん。
そんな頃、2人で飲みに行った時にNさんがふっと口にした言葉。
「みのる、いい気になって会社をでかくするなよ。身の丈を忘れるな」
その時の寂しそうな横顔を忘れられない。
しばらくして、我々は独自にオフィスを構えることになった。
それから数年後。
携帯の着信にNさんの名前。
「今、病院だ。癌になっちゃったよ・・・。だけど、絶対に復活して、またでかい仕事するからな」
それから1年後、Nさんは亡くなった。
R社ではカリスマ営業マン、独立してからはカリスマ経営者だったNさん。
あっけなく、そして寂しい最期だった。
今、生きていればどんな仕事を仕掛けていただろう。
「もっと面白い事やろうよ!」
なんて、怪しい笑顔を浮かべていたかもしれない。
カリスマにもいろいろな人生があるってことなんだよな。
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