子供の頃「調子の良いやつ」と言われてきた。
いわゆる「お調子者」である。
しかし高校大学と学年が進むにつれてその形は潜めていく。そんな自分が嫌になっていたのだろう。
それが社会人になってからいきなり復活する。
そうせざるを得なかった事情がある。
営業の仕事が怖かった。
お客さんと対峙すること、マネジャーに数字目標で詰められること、他の営業マンからのプレッシャー。
まともな精神でやり合っていたら持たなかった。
だから「お調子者」の殻を被った。
営業現場ではお客さんからの依頼に答えようとして「なんでもやります!」と答えてしまう。
会社に帰ると上司からケチョンケチョンに叱られる。
「自分でできもしないことを軽々しくできると言うな!」
だいたいこんな感じ。
そう言われてもお客さんと約束してしまったものは仕方がない。
無理してでもやれることはやる。
それでもどうしても自分でできないことがある。
そんな時は周囲の力を頼るわけだが・・・。
日頃がお調子者であるだけに周囲からの目は厳しい。
「あんたはいつも調子いいことばかり言ってるからそういうことになるんだよ!」
と庶務のお姉さまに叱られる始末。
「すいません、何卒お願いします・・・」
と泣きを入れと大抵は手伝ってくれる。
まぁ営業部署内で解決する仕事であればこんな感じで済むのだが、他部署をまたぐとそうはいかない。
「お前なぁ、制作にどう依頼するつもりだよ!」
って叱られる。
叱った後に上司はこう言う「俺は知らないよ、自分で言ってこいよ」
そうなんだよな、営業マネジャーは制作マネジャーに弱い。
営業部門は程度の差はあれど「お調子野郎」が多い組織。
仕事のしわ寄せは受け手である「制作チーム」に集中する。
「やっぱりなぁ、そうなるよなぁ」
そんな流れで制作マネジャーに相談に行ってろくなことになるはずがない。
「うちはできないよ、お前の上司に言っておけ!」
てな捨てゼリフで追い出されるわけだ。
この営業と制作の確執のようなものはこの会社では根深かった。
この事が原因で新たな企画や試みがことごとく実現出来ずに消えって行った。
仕事ができるようになってくると、こちらも黙ってない。
「ちょっと待ってくださいよ」
と上司や制作マネジャーに食ってかかるような事態も発生する。
そうなると取締役も含めて大騒ぎになっていく。
そんなことが数回起こると、自分の社内評価が変わる。
「お調子者」から「やらかす奴」
まぁどちらも褒められてはいない。
その評価事態は気に入ってはいたが、営業と制作で睨み合う「ヒエラルキー組織」が嫌になって退職するわけだ。
今考えてみてもやっぱり変な組織だった。
結局、消滅してしまったその会社、その話はいずれどこかで。
独立した「やらかす奴」は一人で生きていくしかない。
誰にも助けてもらえないと思っていた。
が、すぐにそうではないことに気がつく。
会社の中では迷惑だった「やらかし」は社会の中では結構使える。
世の中には「プロ」と言われる人がたくさんいる。
無限とあるお客さんのリクエストを実現する手立てはいくらでもある。
それを教えてくれたのはオフィスの一角を貸してくれたNさんだった。
リクルート伝説の営業マンであったNさんには想像を超える人脈があった。
当時、流通業界のトップであったD社の副社長とも飲み友達、芸能関係にも通じていた。
Nさんにお客さんからのリクエストを相談すると「それは◯◯に相談すれば」と適切にプロを紹介してくれる。
一緒に仕事をしたプロ達はすばらしく良い仕事をしてくれる。
自分の「やらかし」を見事に素晴らしい成果に変えてくれた。
そうして一仕事終わると 「また何かあったらいつでも言ってくれよ!」と去っていく。
ー高倉健かよ!ー
各分野のプロと仕事ができることでサラリーマン時代には味わったことのない充実感を得ることができた。
「自分の『やらかし』は間違っていなかった」そう確信した。
そういったプロの人たちと仕事をすると自分にもノウハウが蓄積される。
ノウハウの蓄積と経験は自信に繋がる。
自信を持つと遠慮なく「やらかす」ようになる。
その結果が今の会社である。
組織の仕事を重視する時期が長く続いたので、自らが「やらかす」ことはしばらくなかった。
最近10数年ぶりに現場仕事に戻った。
やっぱり「やらかしている」まだ小規模だけど。
おかげさまで、その仕事内容は評価されている。
もちろん今回も自分の周りには「プロ」がいる。
「やらかす奴」の周囲に「本物のプロ」がいてこそ良い仕事は完結する。
最近気のなることがある。
「やらかす奴」が少なくなっていることだ。
いても粒が小さい。
プロの仕事人は育っているが「やらかし」が減ってる。
両者が存在することでビジネスは生まれる。
以前に消滅した「ヒエラルキー組織」のようになってはいけない。
時代が変わってもどちらか一方だけでは上手くいかない。
肝に命じたいと思う。