11月18日の日経新聞朝刊。
1面の上段に大変興味深い記事が出ていた。
「小粒になった日本企業」「『寿命』突出の89年 成長鈍く」というタイトル。
趣旨はこうだ。
・日米中企業の1社あたり時価総額が00年と17年を比べると日本が一番伸び率が低く、中国に逆転されている。
・上場企業の平均寿命を比べてみると、米は15年、英は9年、日本は89年と極端に長寿である。
・ここ10年で日本の上場企業の倒産件数は79社、対して米は331社。
「最近の日本にはアメリカや中国で勃興しているような大規模企業が育っていない、それは日本の経営者の保守的な思考が原因である、日本企業はもっと新陳代謝を積極的に行い世界に見劣りのない大規模(ここでは時価総額?)企業を産み出す努力が必要である、起業の促進と成長を産み出すためにも新陳代謝は必要である」
概ね、こんな事が言いたかったようだ。
趣旨はわかる。
以前より「日本ではアップルやGoogleのような企業が産まれない」などと言われてきた。
米や中国の最近台頭しているプラットフォーム系グローバル企業が日本にないことは「日経新聞」的には無念かもしれない。
だからと言って、長寿企業がいけないわけでも倒産件数が少ないのがいけないわけでもなかろう。
むしろ、この2つは世界に誇れる点だ。
ちなみに、
かつての日本にも世界規模の企業が多く存続していた、東芝やシャープ、ソニーやトヨタ、日産など世界規模の大手製造企業である。
しかし、需給のバランス変化により日本だけでなく世界中の大手製造メーカーが厳しい経営状態に陥ってしまった。
東芝は衰退、シャープは外資に吸収、日産も外資になり、生き残っているのはトヨタぐらい。
日本のサービス業には世界規模はない。
理由としては、文化の違いや国の規制もある。
特に規制については日本政府は非常に頑なである。
アップルやGoogleが日本で起業していたら今の規模にはならなかっただろう、国の規制が厳しいからだ。
閑話休題。
さて、倒産せずに長生きする企業が多く存在することは「企業の成長を阻害する」のであろうか?
日本企業には創業100年を超える企業が10万社以上あると言われる。
その中には1000年を超える企業も多く存在している。
こんな国は世界中で日本だけである。
100年以上もビジネスを続けている企業がこれだけある現状をまずは誇りたい。
先日、山口義行先生の講演に「とらや」の社長がゲストでお越しになられた。
430年続く老舗和菓子屋さんである。
社長曰く「継続の秘訣はオープンマインドである」
つまり、固い頭では400年続く企業を支えて発展させることはできないということである。
自分の知り合いにも創業50年を超える2代目、3代目経営者がいる。
それぞれイノベーティブな取り組みをされている。
長寿企業が成長を阻害しているという理屈は合わない、長寿企業でもイノベーティブな取り組みを続けている企業は多く存在する。
新聞の趣旨は「いやいや、中小企業の話ではなく・・・」というのであればそれも失礼な話だ。
日本は中小企業が99.7%を占めている、日本の経済は中小企業が動かしていると言っても過言ではない。
確かに、旧来のビジネスモデルが通用しなくなり継続が困難になっている中小企業も少なくない。
新陳代謝も必要な業界もあるし、事業承継がままならない事情もある。
そう言った問題は大手中小関係なく存在する。
規模の大小は関係なく経営課題は存在し、時に革新的な改革を行い長い時間をかけて企業文化を作り上げてきた長寿企業の存在は貴重だ。
長く続けていられる理由は、社員や顧客満足の状態が長いからであって金融機関の施策が緩いからではない。
時価総額の拡大を狙い、周りの企業を無秩序に買収し、その成長率や社員数を誇る企業が増えて、うまくいかなくなれば無責任に倒産させる。
そうすることで誰が幸せになるのであろうか?
企業には社員がいる、顧客がいる、ユーザーもいる、そのような人々に多大なる迷惑をかける倒産や買収を推奨するこの新聞の主張は偏っている。
企業にとって成長こそが目的であるかのようにこの紙面からは読み取れるが、自分にとってはそうは思えない。
いたずらに成長だけを目指した結果、大手企業の粉飾や倒産を生んだのではないだろうか?
海外においてもその事例に困らないほど存在する。
100年以上顧客やユーザーに支持されながら健全に経営してきた老舗企業から学ぶことは、ポッと出の「口だけ経営者」よりも多いと思う。
小粒でも良いではないか!日本の中小企業の力を見くびってはいけない。